INTERVIEW

東京都に聞く

大都市・東京の医療提供体制を
どう再構築するか

全国的には高齢化が終わり本格的に人口減少の局面を迎えている地域も多い中、大都市部とその周辺は、これからまだまだ高齢化と人口減少が同時に進むという未知の部分が大きい。日本の人口の約1割(約1,400万人)が暮らす東京都の医療提供体制はどのように再構築されていくのか。2040年を見据えた新たな地域医療構想を中心に、課題認識や今後の方向性について、東京都保健医療局医療政策部の計画推進担当課長・本間義崇氏、同医療政策課長・金澤亮太氏にお話をうかがった。

*裏表紙「用語解説」も併せてご参照ください。

高齢者数はこれからがピーク
特に85歳以上の救急搬送増が予想

―― 東京都の保健医療計画は令和6年3月に改定されました。その概要について簡単にご説明いただけますか。

本間 都では保健医療計画を、医療分野に加え、いわゆる予防などの保健分野も含めた総合的な計画として位置付けています。「誰もが質の高い医療を受けられ、安心して暮らせる『東京』」という基本理念を掲げており、それに基づいて様々な取り組みを行っています。具体的には、保健に関しては、生活習慣病の予防や母子保健、こころの健康づくりなど、それから医療に関しては、5疾病6事業をはじめ、リハビリや外国人への医療、医療DXなどにも力を入れています。

●図表1 東京都保健医療計画の体系図
東京都保健医療計画の体系図

出所:東京都保健医療計画(令和6年3月改定)p.6

―― 都には13の二次医療圏があり、まさに大都市部といわれる圏域もあれば、多摩地区や島しょ部もあるなど、特殊な地理的状況において計画を策定する大変さがいろいろあると思います。今回の医療法改正で地域医療構想が医療計画の上位の概念と位置付けられましたが、都の担当部局として新たな地域医療構想をどのように受け止めておられるのでしょうか。

本間 従来の地域医療構想は入院医療を中心としており、病床の役割分担について各病院が二次医療圏ごとの協議を通じて自主的に進めていましたが、新たな地域医療構想では入院医療だけでなく、外来医療や在宅医療、介護との連携、人材確保も含めた地域の医療提供体制全体を対象とし、地域完結型の医療提供体制の構築を目指しています。都としても2040年を見据えると、これから高齢者の数自体が増えていきますし、一方で医療人材の確保が厳しくなることを含めて、今までのような入院医療を中心とした体制づくりだけではなく、在宅医療や介護施設との連携、それから人材確保も含めた医療提供体制全体の方向性を今後構想としてまとめていく必要があると考えています。

また、特に重要な課題として、今後は高齢者、特に85歳以上が増えていきますので、高齢者の救急搬送が増えることが予想されます。ですから、高度な救急医療を担っている医療機関になるべく高齢者が集中しないようにし、高度な医療を必要とする方が限られた医療資源の中で適切な医療を受けられる体制づくりを検討していく必要があります。

●図表2 東京都の二次保健医療圏
東京都の二次保健医療圏

出所:東京都保健医療計画(令和6年3月改定)p.51

金澤 10年前、2025年に向けた地域医療構想を策定したときは、団塊の世代が後期高齢者になる中で医療体制をどうするかという話が中心でした。しかし2040年に向けた構想となると、人口の動向が当時と全く異なっていて、高齢者の数のピークはまだ先ですが、若年人口や生産年齢人口が減少局面に入っていく中、これまでと同じ医療体制では立ち行かなくなってしまうことが見込まれ、医療資源をどう再配分するかということもあらためて考える必要があると思います。

―― 新たな地域医療構想では、外来や在宅医療を含めて医療機関機能に着目した考え方が示されており、どちらかというと高齢者救急や地域急性期など地域医療のレベルで俯瞰して、施設機能を整備していこうという考え方になると思うのですが、このあたりはどのように受け止めていますか。

本間 従来の構想では、入院医療にフォーカスしている部分がありましたが、今後は入院前のかかりつけ医や外来医療、退院後の在宅でのケアの取り組みなど、入院前、入院中、退院後の切れ目ない連携をつくらないと、高齢者が増加する中でうまく回っていかないように思います。

病院には総合診療的なケアを

―― 今回焦点が当たっている高齢者救急や地域急性期の機能を、これからどのような病院が担っていくのかという具体的なイメージがあればお聞かせください。

本間 高齢者の疾病は医療資源の投入度がそれほど高くないという特徴があるので、現状でも高齢者の救急を受け入れられる病院は多く存在します。そこをうまく生かしていくためにも、救急受け入れ後の総合診療的なきちんとしたケアを病院にはお願いしたいと思っています。

高齢者の場合、救急搬送の要因となった疾病以外にも複合的な基礎疾患を持っていることが多いですが、総合診療的なケアや退院に向けた調整、それから入院中に日常生活動作(ADL)や自立度が低下しないためのケアが手薄になりがちなため、地域との連携体制を構築していくことが課題だと考えています。

金澤 また、都では15年ほど前に救急医療の「東京ルール」を定めていて、地域の核になる病院を中心に地域内で完結する体制をつくってもらっています。輪番制で地域の救急医療機関が救急患者を受け入れており、圏域内で調整がつかないときには広域調整を行う枠組みができているのですが、コロナ禍以降、搬送先の調整がなかなかつかない事例が増えています。一方で搬送される高齢者の状況を見ると重篤な状況でない事例もあると聞いており、これからさらに高齢者が増える中で「東京ルール」の今後のあり方をどうするべきかという問題意識は持っています。

本間義崇氏
東京都保健医療局医療政策部 計画推進担当課長
本間義崇氏
金澤亮太氏
東京都保健医療局医療政策部 医療政策課長
金澤亮太氏

民間病院の経営安定化に向けて

―― 実際のところ都内の病床数の約9割は民間病院が担っています。これらの病院が高齢者救急や地域急性期の一定程度の割合を今後引き受けていかなければならないし、在宅療養支援は現在でも取り組んでいると思いますが、病院経営が危機的な状況において、これらの機能を担う民間病院に対して今後どのような経営支援策をお考えですか。

本間 今回の診療報酬改定では30年ぶりの引き上げ幅となりましたが、前提として物価高騰が長引いており、病院経営が全国的にも厳しいという事情があります。都としては令和7年度から、地域医療の確保を目的として入院患者1人当たり1日580円(今年度は500円)の緊急・臨時的な支援を実施しており、足元ではそうした支援も行いながら、新たな地域医療構想を策定していく中でどういった支援が必要なのか、これから検討が必要だと考えています。

金澤 本来は、病院経営に必要な経費は公定価格である診療報酬で措置してほしいというのがわれわれの基本スタンスです。都内の病院だけが厳しい状況に置かれているわけではなく、全国的な問題だと認識しており、都としても国に対して、病院経営の実態を踏まえて診療報酬を改定してほしいと強く要望しています。今回、約30年ぶりの水準で診療報酬が引き上がりました。緊急・臨時的な支援はその効果を見極めるため、今年も実施していますが、病院経営の下支えは本来、国に責任を持って対応をお願いしたいところです。われわれとしては、都がこれから策定を進める新たな地域医療構想の中で、目指すべき将来像を描き、シフトチェンジしていきたいと思っていて、その1つが先ほど申し上げた高齢者救急になると考えています。

医療資源の差を見極めながら
区市町村との連携・役割分担の深化を

―― 高齢者救急は介護保険との連携が非常に重要ですし、外来や地域急性期の医療は二次医療圏よりはもう少し狭い圏域で考えた方がいい場合もあります。介護保険はまさに基礎自治体の区市町村が保険者ですので、基礎自治体が医療提供体制に関わることが今後必要になるのではないかと思うのですが、区市町村との連携や役割分担について今後どのように進めていこうとお考えですか。

本間 都としては、今回の構想策定を広域的な目線で行い、病院の役割分担の誘導にも取り組んでいくことが役割だと思っています。一方で区市町村は、より住民と密接な立場から地域包括ケアシステムの構築や医療と介護の連携などの取り組みを行っており、今まで以上に連携していく必要があると考えています。これは都と区市町村のいずれかが上の立場ということではなく、都と区市町村がそれぞれの役割や強みを生かしながら連携して取り組むことを意味します。具体的な取り組みについてはこれから検討していきますが、今までの役割分担における取り組みをさらに進化させていくことが必要だと思います。

金澤 介護や在宅医療などの分野では、今も区市町村と連携して取り組んでおり、また、区市町村内における体制づくりも進めてきていますが、今後はより一層取り組みを進めていくことになると思います。一方で区市町村ごとの状況を見ると、地域の医療資源に差があるので仕方のない部分もありますが、取り組みに差があるのも事実です。都としては、しっかりできている自治体の取り組みを広げながら、区市町村との連携をより深めていかなければならないと思っています。

本間 今も都の会議体として、地域医療構想調整会議の下にワーキンググループがあり、在宅療養をテーマにしたワーキンググループを年1回各二次医療圏で開催しています。そこでは医療機関だけでなく地域の在宅医やケアマネジャー代表者などが各区市町村から集まっており、ワーキンググループでの議論に向け、各区市町村単位で課題を事前に整理した上で、二次医療圏単位のワーキンググループで議論を深めてもらうという取り組みを令和6年度から進めています。そうした取り組みもさらに強化していきたいと考えています。

―― まさにこれから医療そのものに、基礎自治体が関わってくる状況が予想されるのですが、自治体レベルでも直接的に病院を経営しているところもあれば、そうでないところもありますし、大都市部の自治体、島しょ部の自治体もあり、そうしたところで医療提供体制を整備していく難しさは非常にあると思います。

本間 たとえば、都の特徴として、都心部と多摩地域、特に西多摩地域とでは状況が大きく異なっているという点が挙げられます。西多摩地域では医療資源が限られており、医療人材の確保も難しい状況ですので、われわれとしてはそうした地域特性を踏まえきめ細かく議論していかなければなりません。そのため都全体を一律として考えるのではなく、地域に応じた課題を拾い上げ、それを踏まえ対応していくことが必要になると思います。

―― 都としてあらためてしっかりとお伝えしたいことがあればお願いします。

金澤 新たな地域医療構想については、まだ大まかなアウトラインしか見えていない状況ですので、具体的な検討はこれからになりますが、長期的に見て、人口動態を含めて社会的な状況が大きく変わっていくことが見込まれます。そのため、これまでのように現状の医療資源を守っていくという考え方だけでいいのかどうかということも含めて、検討していかなければならないと思います。

一方、地域での役割分担や医療資源の再配分等の課題というのは非常に大きな話ですし、どのようにして都が目指す方向に誘導していくのか、ということを長期的な視点に立って考えていかないといけないと思います。

医業経営コンサルタントへのメッセージ
「医療機関との橋渡し役を」

―― 最後に、医業経営コンサルタントに期待することがあればよろしくお願いします。

本間 新たな地域医療構想に基づく2040年を見据えた医療提供体制を再構築する上で、お伝えしたい点が三つあります。

1点目に、医療需要の変化を踏まえた視点として、高齢者救急や外来、在宅、介護との連携が今後重要になる中で、医療機関単体で見るのではなく、地域の中で各医療機関がどんな役割を担っていくのか、連携していくのかという視点が重要になってきます。人口構成の変化なども見据えながら、各医療機関が自分たちの強みを見極めて役割分担や連携を考えていただきたいと思います。

2点目に、医療DXを活用した業務の効率化や働き方の見直しにつながる取り組みが求められると思います。これからは人材確保がますます難しくなっていきますので、少ない人員で業務の効率化を図るとともに、それぞれの専門職が専門性を発揮して、働き続けられる環境が大事だと思っています。

3点目に、客観的なデータに基づいた議論を行い、医療提供体制を持続可能にすることが重要だと思います。新たな地域医療構想の策定に向けての議論もそうですし、策定後の各地域における議論でも、各医療機関が患者に対してどんな医療を提供しているのかといったデータをきちんと見て議論し、役割分担を見直していくことが必要になります。われわれとしましても新たな地域医療構想を通じて目指すべき方向性を示していきたいと考えておりますので、医業経営コンサルタントの皆さまにはわれわれの方向性もご理解いただいて、一緒に取り組んでいきたいと思っています。

金澤 これまでも都として様々な政策を打ち出している中で、われわれが行っている施策が都内全ての病院やクリニックにうまく行き渡り、活用していただけているかというと、正直、なかなか難しいなと感じることも多いです。新たな地域医療構想では、将来を見据えた大きなテーマを都としてしっかり議論して政策に落とし込んでいくことになるので、それが多くの医療機関にきちんと行き届くような橋渡し役をぜひお願いできるとありがたいと思います。

(聞き手:本誌編集専門委員 寺崎 仁)

JAHMC 2026 June pp.6–9